騎士はつらいよ 第4回~聖堂騎士団の光と闇~
ずいぶん期間が空いてしまいました。久々のドラクエに関する考察です。今回は騎士はつらいよ第4回、「聖堂騎士団」について解説します。なお、この考察は私自身の知識や主観に基づくものです。当方、西洋史の専門家ではないので、歴史的記述に対しては一部間違いや理解に不十分な点があるかもしれません。そこら辺は片目をつぶってスルーしていただければ嬉しいです。
聖堂騎士団って何?
聖堂騎士団とは中世ヨーロッパ、ちょうど十字軍が遠征をしていた1100年代に活躍していた「騎士修道会」の1つです。騎士修道会とは、騎士でもあり修道士でもある人々で構成された騎士団で、日本でいう「僧兵」にあたります。十字軍の主軸になってエルサレムに遠征したり、エルサレムまで巡礼にいったりする人を守ったりしました。また、「北方十字軍」といってまだキリスト教を国教としていない国々を征服し、「改宗しろ」と迫るのも仕事の1つだったのです。
つまりですね、ヘルシングのアンデルセン神父とか、由美江とかそういうのが集団になっているようなもんです。あ、王ではなく神に忠誠を誓っているグレイグの集団でもいい。
中世ヨーロッパにはいくつかの騎士修道会がありましたが、聖堂騎士団、聖ヨハネ騎士団、ドイツ騎士団は三大修道騎士団として有名です。
ドラクエの世界では
やっぱりこの人ですね。マルチェロ殿。ドラクエの世界で教会が独立した「武力として騎士団」を持ち、「法皇」というトップが登場し、その座を巡って聖職者が争うというシーンが描かれたのは、今のところドラクエ8が最初で最後。
聖堂騎士団と普通の騎士団では何が違うの?
一般的な騎士団は王や諸侯に忠誠を誓った戦闘員の集団です。守るのは王や諸侯の土地や利益であり、王や諸侯は騎士に見返りとして金銭や土地を与えなければなりません。ギブ&テイクの関係です。
中にはグレイグみたいに忠誠100%の騎士もいたかもしれないけど、大抵は金と地位目当てだよ。世の中そんなに甘くないよ
しかし、聖堂騎士団は戦士であると同時に修道士でもあります。「建前」として、個人の財産は持てません。聖堂騎士団に入るためには、全財産を教会に寄付し、それは騎士団全員の共有物になります。そして、聖堂騎士が忠誠を誓うのは神(の代理人である法皇)です。この時代、教会はどこの国にも属さず独立した権力機構でした。ですから、聖堂騎士団もどこの国の王にも膝を屈することなく、『独立した団体」として騎士団長の元、自由に活躍することができたのです。(ただし、法皇の命令は聞くよ。これが、マルチェロが法皇を目指した理由でもある。法皇になればすべての教会のトップに立てるから、王でなくても強大な権力と莫大な財産が手に入る)
今でも「出家」とか言って、新興宗教がよくやる手ですね。無給で使える人材が一杯入ってくる上、財産が増えるんですから笑いが止まりませんわ。
つまり、騎士団員に給与も褒美も必要ない。衣食住だけ保証してあげればいい。しかも、「神への喜捨」の名目で寄付金も集められる。これは大きいです。元々「戦争」というのは、膨大な消費行為であり、軍隊は何も生み出しません。しかし、給与も必要ない(というか、騎士団員が財産もってくる)、寄付の名目で王や諸侯からはお金をせびることができる、となれば、軍隊の維持方法や金策に頭を悩ませる必要はなくなります。黙っていても、入団希望者がやってくる度にお金が増えていくのですから。
財産は増やしてこそ意味がある
さて、このように強力な武力と豊富な財力に恵まれた聖堂騎士団が戦いのないときに何をしていたか。それは、「銀行業」です。聖堂騎士団の業務の1つにエルサレムに巡礼へいく人々の警護がありますが、その当時の旅は過酷でした。泥棒とか追い剥ぎとかも珍しくなく、路銀をもっている巡礼者は格好の獲物となります。そんな巡礼者に、聖堂騎士団は持ちかけます。
「な、うちらにお金あずけへん?そうしたら、この為替発行するわ。この為替を聖堂騎士団が駐屯しているところで見せればお金を引き出せるねん。現金もっていくよりあんしんやろ。どうや?」
ドラクエのゴールド銀行のモデルは聖堂騎士団だったんですね(嘘です)
もちろん為替を発行するには手数料がかかります。つまり、これで財を増やす。さらに増やした財を貸し付けることもしました。貸し付ける相手は「国」です。
中世では、国が安定して税を取り立てることはとても困難で、ちょっと飢饉や戦争が起こればすぐに国庫が傾きます。そこに聖堂騎士団は持ちかけるんですね。
「あんたんとこの国、今年財政厳しいんちゃいます?よかったらお金貸しますわ。なーに、利子はちょーっとつきますけどな。とりあえず今を乗り越えることが先決でっしゃろ」
見える、見えるぞ。マルチェロのゲス笑顔が(褒め言葉)
こうして、ほとんどの国が聖堂騎士団から借金をすることになりました。中でも借金額が多かったのはフランスです。1200年代末にはついに財政すべてが聖堂騎士団管理になってしまい、国の経済は騎士団に握られるという有様になっていました。
こうしてみると騎士団って何?と思いますがドイツ騎士団なんて今のロシアの端っこを占領して国を作ってますから、まあ、「財力と武力を持った宗教団体」は国に匹敵する権力が持てるというよい証明になですね。
人間の方がゲスだった
さて、こんな風に栄華を極めた聖堂騎士団ですが、思わぬ滅ぼされ方をします。
聖堂騎士団を滅ぼしたのは、フランス王「フィリップ4世」別名美男王と呼ばれたほどハンサムな王様でしたが、この人は酷い人でした。なにせ、聖堂騎士団から莫大な借金をしておきながら、
「あれ?聖堂騎士団を叩き潰しちゃえば借金が帳消しになるだけじゃなくて、お金も儲かるんじゃない?」と考えます。
まるで「サラ金に火をつければ借金を返さなくてもすむぜ」と考える追い詰められた人みたいですね。
さて、フィリップ4世は何をしたかというと、教会に匿名で
「あのねー。聖堂騎士団の皆さんは反キリスト教的行為をいっぱいしたよー」と密告したあげく、いきなりフランスに駐屯していた聖堂騎士団のリーダーを捕らえて火あぶりにします。
これが、元祖匿名炎上ですね。(嘘です)
こんなバカな話があってたまるかと思うんですが、それだけ聖堂騎士団が目障りだったといういう国が多かったのでしょう。その後、聖堂騎士団はちりぢりになり、教会の権力が及ばない地域へ落ち延びていきます。つまり、中世では「異端審問」にかけられたらそれでもう人生が終わってしまうものだったのです。
なお、フィリップ4世が行った聖堂騎士団壊滅作戦は本当はもう少し複雑で、教皇も関わってくるんですが長くなりそうなので割愛します。興味ある人はまたご自分で調べてみてください。
現在も残る騎士修道会
さて、こんな風に聖堂騎士団は壊滅してしまいましたが、実は現在でも活躍している騎士修道会があります。その名は『マルタ騎士団」といい、聖ヨハネ騎士団が元になった騎士団です。この騎士団はかつてマルタ島に領土があったので、マルタ騎士団って呼ばれるようになりました。この騎士団、現在は国土を有していませんが、
イタリアに「マルタ宮殿」って事務所構えてて、その事務所は大使館同様治外法権で、国連にオブザーバーとして参加していて、独自に外交を結んでいる国が107過酷もあって、今の団員の主な活動はイタリア共和国軍の軍医部隊。
注 べつにラノベの設定ではありません。現実にこういう団体があるんです。
いやあ、戦地で怪我して動けなくなってたら、「マルタ騎士団到着!!」と白衣着た軍人さんがだーっとやってきたらめっちゃ萌えるじゃないですか。
というか、現パロでドラクエやるなら マルチェロもククールもグレイグもホメロスも全部マルタ騎士団に入れちゃえばいいんだよ。騎士で医者だよ。最高じゃない。
というわけで、今回は聖堂騎士団についてざーっと説明しました。これで騎士については一応終了です。次回からはドラクエの名脇役キャラ「王」についてかいせつしていきます。
では、また。